皇国の守護者(1)反逆の戦場

いやーこれ読むといかに漫画版が凄いか良く分かりますね。
というのは決して小説版より漫画版が優れているという訳ではなくて、
小説がとにかく面白いにも関わらず、漫画版としての楽しみが別個にちゃんとあるんですよ。
これ、漫画化する必要無いだろう!とすら思えるくらい、テンポよく読めるんですけどね、
それをあえて漫画にしちゃったのが凄いというか。
見せ方も結構違ったりするので、解釈にも色々変化がありました。
その最たるやは、やっぱり西田少尉の扱いの違いでしょうか。
それは後々に書くとして、まず天狼会戦が驚く程簡素。
むしろ序章部分に過ぎず(漫画でもある意味そうでしたがあれよりも簡素)、
あくまでも敗走戦部分こそが北領での本題だと言わんばかりの書き方です。
まぁ実際そうなんですけど、これは後々何度でも必要あらば説明の書き足せる小説ならではという感じで
その敗走がどういう意味を持つのかを考えるとやはり漫画版はとても親切かつ分りやすいです。
ちなみに小説版は兎に角<皇国>に関する説明が多いです。
いや、<皇国>に限らず、全体的な世界観ですかね。
漫画版で<大協約>や、<帝国>と<皇国>の差異が分からなかった人には良い感じです。
あと、そもそものこの戦争が始まった理由もより具体的に描かれてます。
導術士が<皇国>にいて<帝国>にはいない理由や、
<皇国>と<帝国>の価値観の違いなんかも普通に面白いです。
やっぱり<皇国>の特徴はえらく日本に似通ってますね。
面白いものには兎に角手を出してみる。加工上手。
皇族の扱いが日本の皇室そっくり。(国の象徴としての印象が強く政治的実権を殆ど持ってないとか)
さて、そういったおおまかな違いはとりあえず置いておいて。
具体的な違いはというと先ほども述べた通り、西田少尉の扱いが漫画版では断然良くなってました。
というか、小説版は若菜も西田少尉も割とあっさり目に描かれてます。
そもそも守原の副官を助けるというエピソード自体ありませんし、
若菜は大隊に合流するまでに死んでしまいます(帝国軍を挟撃しようとした部分は同じ)。
そして西田少尉は大隊合流後の帝国軍に対する伏撃夜襲戦で、戦死します。
特に目立ってません。
しかし、新城の(内心の)台詞は漫画版と同じ「自分が嫌っていたもの。〜」です。
これって面白い差異だなーと思いましたね。
小説版ではあくまでも死を淡々と描くことで「死は誰にしも平等に訪れる」事を痛烈に感じますし、
逆に漫画版ではキャラクター達に感情移入した上で、死の前には善も悪も良いも悪いもない
ということを思い知らされます。
どっちに転んでも、新城の台詞には納得がいくんですね。
前者の方がより冷めた視点で「死」を見つめている気がします。
漫画版は逆に漫画という媒体である点も大きく、より情動の激しい方が読み手には分かりやすいので、
読者受けの良さから考えたらこっちで良かったような気がします。
そういえば漫画版は新城の表情が割合豊かなので、原作読むに、
「あれ、ここ、実際はもっと淡々としてるのね」という点もいくつか。
というかこれは読者の受け取り方なのかな、私には割と漫画版新城は人情派に見えました。
なんだろう、根っこはそう変わらないんだけど、小説版新城はもうちょっと表情で隠しちゃう人、
という印象がありますね。
余談ですが、新城の描写でのっけに「凶相だが笑うと奇妙な朗らかさがある」て書いてあって、
思わず吹き出しました。
凶相! 確かにそうだけど!! 確かに笑うとちょっと可愛いけど!!
ああ、そうかぁ。こういう描写があってあの絵になったのかぁ。納得。
ちなみに小説版の表紙絵でどうしても納得がいかなかったのは、新城の身体の大きさ。
本文中どこかで短躯だと書かれていたはずなのに、どうみてもでかそう。
ユーリアより小さいとかいわれても真実味に欠けるのです(その点は漫画版に軍配が上がったり)
んでまた伏撃夜襲のとこに話が戻るのですが、新城達が深呼吸をする時、
猫達も形だけ真似て欠伸をしているのですが、ここが凄い可愛いんです。
猫達はなんでのんびりしてるんだろう、て疑問に感じながら真似てるんですって。
なんだ、その可愛らしさ。あの「くわー」にはそんな意味があったのか。
深呼吸があくびに変わっちゃう猫達が可愛過ぎます。まねっこにゃんこー。
あ、そういえば新城と千早のやり取りは、漫画版とは結構印象が違う部分がありましたね。
敵兵から旋条銃の銃床を抜こうとした時とか、
小苗橋での攻防で敵の砲撃が開始したので壕に入った時とか。
もしかしたら全く同じに見える人もいるのかも知れないですが、私は結構受ける印象が違いました。
そういえば、もいっこ大きな相違点。
漫画版では強姦された娘(というか息子の嫁?)をつれた衆民が新城達の元に駆け込んできて、
結局馬を手当てしてやるだけで美名津まで下がらせていましたが、そういった描写もなし。
あれはその後の新城の策(帝国軍の現地徴発阻止)により、免れるであろう事例を
手っ取り早く説明する為だけに挟み込まれた模様です。
確かに新城と他の将校達のやりとりの合間に会話で出させるよりも明確で分かりやすいですね。
文章だと気にならないけど、漫画だと説明的に過ぎるかも知れません。
あと、個人的にここで気になったのは<大協約>を持ち出して、この策の有効性を説く新城と、
将校達のやりとりですね。
漫画版読んでて、てっきり漆原達は分かっていながらも納得できないという理由が主で、
新城に対し質問を重ねていたのかと思っていましたが、実際にはそうではなく、
漆原達はそこまで厳密に<大協約>の内容を把握している訳ではなかったこと。
どうも<大協約>というのは日本国民にとっての日本国憲法みたいなもので、
なんとなくおおまかには知っているけれども条文を覚えている訳では無いので、
事細かには記憶していない、というようなものらしいです。
割と生活に密着したものらしい。
生活に密着し過ぎると細かい部分は忘れられることが多いですから、漆原達の反応は自然ですよね。
要するに漆原達が初歩的なことを聞いている訳では決してなく、新城の<大協約>に対する認識が、
通常の人のそれとは大いに懸け離れているという事だったらしいです。
「ここってさりげに新城伝説(何それ)のエピソードだったのか!」と驚いたり。
さて、一巻は「光帯の下で」の終わりまで。
上苗を渡河してきたカミンスキィ達の迎撃に入ったところで終わりです。
なんだろう、細かい説明とか嫌いな人にはちょっとしんどい部分もあるかも知れませんが、
慣れると読みやすい文章です。
何より会話とかが割とテンポよく進むので、読んでて楽しいです。
あと、場面転換もちょくちょくあるので、ずーっと新城達の行動を追うばかりじゃなく、
別の部分も楽しめます。
漫画版では結構色々なキャラ好きだったんですが、小説で(この時点で)は兎に角新城一点主義でしたね(笑)
あ、おまけで千早。可愛いよ千早。
あ、あとは猪口さんも好きかも。
視点が少し新城より上で、この人いるとほっとします。
面白かったです。ていうか感想全く書かずに最新刊まで読んだ辺りで察して下さい(笑)