エマは少女漫画?



私は、この作品が大好きなのですが、この作品をあえてカテゴリに振り分けてしまうなら「恋愛物」だと思っています。しかも『少女漫画』寄りの。
掲載誌がビームだと云う事や、少女漫画にありがちなキラキラした目の大きなキャラが動いてないと云う部分から青年向けと言えなくもないですが、どちらかというとやはり私は少女漫画かなぁ、と。
特に80年代中頃から90年代前半くらいの雰囲気。今の少女漫画と昔の少女漫画って全然違いますものね。
作者がメイドにこだわりを見せている部分と、メイドという職業が昨今の男性の萌えセンサー(笑)に引っ掛かりやすいという点について無視出来ない所が有るのですが、それでも男性サイドから見てもこの漫画は実は『萌え』の対象にはなり難いのではないかと思っています。
というのも、この作品が女性の手で描かれているからです。(まぁそれでも萌える人は萌えるんだろうけれど)
私は初めてこの作品に出会った時、かなり早い段階で女性が描いている作品だなと思いました。多分、女性の大部分の方は気付かれるんじゃないかな。これは明らかに女性の視点で描かれている物語です。
女性視点で見るメイドと男性視点で見るメイドは、明らかに違います。
そして、女性の場合はエマの視点で話を読む事が多いだろうけど、男性はウィリアム達、即ち男の視点に立って読む事が多いと思われます。この時、男性側にはメイドを『使う者』の意識が少なからず存在すると思われますが、しかし一方でウィリアムとの恋愛に重点をおいている女性サイドには『使われる者』としての意識は殆ど存在しないといっても過言ではないでしょう。
男性の『メイド萌え』は、分解してみると制服が可愛い・自分に尽くしてくれる・ストイックなのが良いなどの様々な要因があるようですが、やはり見た目の可愛さの中に職業柄の性格を内包しているが故、惹かれるという部分が強いようです。
つまりはそういう彼等にとって、『従属するもの』でなければそれはメイドではないと言えるかも知れません。
大事なのは『使役するもの・されるもの』の関係性なのです。
そして、この物語の主人公エマは恋愛対象のウィリアムに限りその関係性から解放されています。
ウィリアムがエマの主人ではない所為も有りますが、むしろウィリアムが階級や身分に縛られない関係を望んでいる為であって、少なくともエマは彼一人の前でならメイドではなく普通の女性でいられるのです。
男性の視点、特に萌えを最優先で描いた場合、これはタブーです。
エマはやはりウィリアムにとっても『メイド』という存在でいる事が肝要だと思われます。
メイドがそれほど迄に愛される理由は、男性の支配欲を不都合なく満たす存在であるからです。


さて、そうして考えるとこの作品のメイド達はかなり健かです。
物語の根底に『使役するもの・されるもの』という関係性が根付いていようとも、それが重要な問題として表面化しているのはウィリアムとエマの恋愛絡みだけです。まぁそれがこの漫画の主題なので、これだけが取り沙汰されているように感じられるかも知れませんが、実際はそうでもありません。
ウィリアム家ではそういった描写は殆どないし、メルダース家でも使役する側とされる側が別々に独立した空間を作っていて、彼等はちゃんと棲み分けをしています。主従関係でいるのはあくまで仕事上と割り切っているようです。私情は入らないんですね。
逆にそれだけ相容れない世界だからこそ、エマとウィリアムの恋愛がどれほど現実的に厳しいものかという事が解るんですが。
そして『エマ』がしようとしているのはその高い壁を乗り越える事。
エマが社交界の中に飛び込む事になるか、ウィリアムがその地位を捨てる事になるか、それとも別の道を行く事になるのか解りませんが、とりあえずこの物語においてこの二人だけは(周囲の人間がなんと言おうと)お互い対等な立場であるはずです。
エマが控えめな性格に加えて男性を立ててやる優しさを持っている為に、そこにメイドという職業を当て嵌めて『主従の許されざる恋』と見る事が出来ますが、その実そういった見方をするのは主に男性で、女性が見る分には、この身分の違いは恋愛物に付き物な『数々の困難な障害』程度にしか認識されないでしょう。


では、作者である森薫さんの後書きも踏まえて見てみます。
彼女は明らかにメイドに『萌え』を見ています(笑)
女の子がフリルやレース・可愛い格好に憧れるのとは別の意味で、メイドという存在を特別視していると良いかと思います。
実は私も好きなんですけどね(笑)
では女である私達が何故メイドに萌えを見い出すのか、という点になるのですが、これは自分の中の男性性が発現しているのだと考えています。
もしくは、これは少し捻くれた考えなのですが、そういう目で女性を見る事を『普通』だと思っている男性達へのアンチテ−ゼか。
更に、何故男性性の発現が起こるのか……という所迄考えたは良いんですが、ここから先説明しようとすると、ちょっと子供の目に留まるのは宜しくないかも知れない内容になって来たので泣く泣く端折ります。ある意味ここが一番肝心だと言うのに……。


で、上記の通り、森さんはメイドに対して明らかに『萌え』を感じていますが、それは男性の持つ『メイド萌え』とは微妙に異なり、また一方でその主従関係を崩す事に重点を置いています。
というより初めから話の流れだけを見れば、極めてオーソドックスな少女漫画の形態を取っていると思います。
そこに萌えというエッセンスを投入したのは、記号化された『メイド』や『主従関係』であり、これは一昔前にはあまり見られなかった現象ですよね。


ここまで描いておいてなんですが、だからといって『エマ』を紹介する時にメイド物と言おうが、恋愛物と言おうが、少女漫画と言うか青年向けというかは人の勝手ですし、見方も勝手ですけどね(笑)
私的には『メイド好きな人の描いた恋愛物少女漫画』かな。無理にこじつけなくても良いんでしょうけど。


追記。
先日のエマ感想の間違いを指摘して下さったkaizenai様もこの事について書いていらっしゃいました。
本当に偶然なんですけどちょっと驚きました(苦笑)
やはり男性側から見ると『少女漫画』と見るには結構無理が有るみたいです。
ん〜面白い。


http://d.hatena.ne.jp/kaizenai/20050403#1112537886