バッテリー6・感想



バッテリー〈6〉(教育画劇の創作文学)

バッテリー〈6〉(教育画劇の創作文学)



おら、えらいもん読んじまっただ……!!


そんな感じです。
多分、次に「あなたが一番好きな本は何ですか」と聞かれたらこの作品の名前を挙げてしまうかも知れないぐらいに、衝撃を残してくれやがりました(興奮の余り日本語変です)
そうでなくとも私の愛する宮澤と滝沢を追い抜くか、という所です。
十数年、私の中でトップに君臨していたこの二人と並んでいる事自体が奇跡に等しいです。
物語はね、確かに面白かった。
でも、物語が物語として機能していたのは二巻まで、良くとも三巻くらいまでだと思うの。
確かに綺麗な完結の仕方はしたけれども、物語として最高峰のものかと問われれば、それは違う、とハッキリ答えます。
じゃあ、何故これほどまでに私の心をがっちりと掴んで離さないのか。
それは一人の人間を書ききろうとする作者の姿が文章中から見えるから。
それだけでも大変なことなのに、人と人が関わることで生じる変化すらも文章中に書き留めようとしているのが解るから。
でも登場人物の少年達は追求の手を伸ばす作者を軽やかに退けて、一人、二人といつの間にか大きくなった背中を見せて去っていきます。そんな印象を受けました。
筆者本人が文庫二巻のい後書きで語っていた通り、書ききる事が出来なかったというのが正しいのでしょう。
巧も、もともとスタスタ階段を登る子だったのに、あさのさんが必死で着いていっていたのではないかなぁ。
でも、待ってられなくなった巧が二段、三段飛ばしで階段を駆け上がるようになってしまった、そんな感じで。
原田巧は最後まで太々しかったですね(笑)
でも彼はそういう自分を持ったまま、ほんの少しづつ許容できる範囲を広げていけるといいなぁと思います。
吉様とのキャッチボールを楽しんで出来るようになったみたいに。
でも芯の部分は変わらないで欲しい。ボールを取ってしまった、原田巧の部分は。
永倉豪君は、本当に大変な道を選んでしまったなぁと思います。でも、彼は強くなった。
これから、進学とか社会に出る為の色々な分岐点で彼はその度に選択を迫られるだろうけど、彼だけは自分の思うように生きて欲しい。巧との事だけを念頭に置かずに。
まぁ一足飛びに大人になった感じがあるので、巧との関係は平行線ながらも割と上手く行くんじゃないかな、と。
吉様は格好良かった。ただならぬ輩オーラ(笑)は今までも出していたけど、彼は精神的に他の子供達より大人だから、『選んで』そのポジションにいるんですよね。
決して嫌みにならない、飄々とした態度で、自分の選んだ道を生きている彼は格好いいなと思います。
サワは、良い子だった。自分の弱かったりする所もちゃんと分かっていてそれを素直に曝け出せる。人の良い所を見つけられる。優しい子ですよね。
ヒガシもまた人の事が良く見えている子だったと思います。自分の思いを貫き通そうとする姿勢も、豪と巧、サワと吉、皆の事をちゃんと見ている大きさも、キャプテン向きだなぁと思います。
海音寺くんは最後にうわー来たなぁ、という感じでした。三巻の彼はひたすら格好良くて、その後も一見天然かと思いきやなかなかに切れ者で。六巻は彼と門脇と瑞垣のお話ではないか、と密かに思ってます。巧の方はあらかた五巻で片付いてたんだよね。
門脇はこの人も最後の最後になんだか今まで見えなかった部分をわーっと見せられた感じです。才能もあって努力も惜しまない、性格も極めて温和(巧にだけは別でしたが)、良く言えば素直で純粋。悪く言えば鈍感。でも仕方ないんだよね、きっと生来のものだろうし、環境もまた彼をそうして育てて来たんだもの。それも、悪い事ではないし。この人はこの実直さのままで瑞垣に相対して欲しいとおもいます。
瑞垣は、ある意味この巻で一番照準に定められた人物。彼の不安定さは、確かに少しでも解消すべきだったと思う。試合が終わったら、門脇とゆっくり対面で話をして欲しいです。瑞垣って、もしかして長い間門脇と正面で目を見て話してなかったんじゃないかな。
別に元鞘に戻れとは言わないけど、門脇の話は聞くだけの価値はあると思います。
青波は、実はずっと苦手でした。でも彼の決心とか、思いとかには時々深く感じる事がありました。今回の出来事を通して、青波は目に見えない所で変わっていましたね。兄の懐にはいつだって温かい場所はあるけれど、もう彼自身がそれに縋る事はないだろうなと思います。
戸村はこの物語で一番大きな変化を遂げた人だと思います。
大人になってからも、まだ周囲からの影響で変わる事はある。変われる可能性があるのだと、なんだか嬉しかったですね。これは大人の視点だからこその嬉しさかな。子供だったら巧が、豪が、子供が大人を変えたんだ、っていう方向で喜ぶのかも知れない。
まだ書きたい人いるんですが、それは割愛して。


ああもうホント書き切れないですよ。言葉にするとすり抜けていっちゃうんです。
日本語はとても表現の豊かな言語だけれど、人間そのものの感情を言葉にするって言うのはとてつもなく難解な作業であり、また実際にはそれを表現しうる言葉などないのかも知れないなぁと思います。
感動っていうのとは違うんだよ。泣けるっていうのとも違う。
多分一番近いのが、衝撃。
通り魔に刺されたみたいな(いや実際には刺された事無いので解りませんが)
読み手として、というよりは書き手(の端くれ)として、感じる所の多い作品でした。
好きか嫌いかで言えば死ぬ程好きです。