箱の中

箱の中 (Holly NOVELS)

箱の中 (Holly NOVELS)

大絶賛しても良いです。いやします、させて下さい。
少なくとも私が読んだBL(数少ないけど)の中で、最も良いと思った作品でした。
今回この作品を読んで私のBL嫌い(というか苦手)の原因がはっきり分かった気がするんですけど、
今まではただ単に「男同士の必要はあるのか」*1とか「自分の妄想の余地がなくて楽しめない」とか、
そういうものだったんですけど、今回気付いたのは、
「その作品が例えばBL以外の棚においても遜色のない作品か」というのが大きいのだと気付きました。
BL全否定するような発言かも知れませんが、その作品がBL的要素を排除しても鑑賞に堪えうるか、
というのは自分の中では相当なウェイトを占めるみたいです。
この作品は、性的描写除いたら別に一般の棚に並んでいても全然おかしくないなと思ったんですよ。
李欧とかの横だったら尚の事全く違和感ない(笑)
考えたら普通の作品でも主軸は勿論大事だけど、
それ以外の部分も大切に書かれている作品の方がやっぱり目をひくんですよね。
あともう一点大事な要素は、表紙絵。
中身が解らない状態で、少なくとも中身を判断する重大な要素の一つなんですけど、
これがすごく大事なんだなーと。
というのも、「檻の外」がこの作品の続編だと言うことはタイトルから想像がついたにもかかわらず、
この作品は平積みの表紙を見た時からずっと気になっていたのが、続編は目に全く留まらなかったんです。
その違いが何かと言うと、やはり表紙から滲み出す「ストーリー性」だと思います。
「箱の中」という印象的なタイトルに、閉塞感を感じさせる表紙絵。
このハマり具合に興味を持ったと言っても過言ではないです。
この作品の評判、全く知りませんでしたから。
(「ぱふ」や「かつくら」で紹介されていても、専ら興味もつのは一般小説なので)
思えばこの時から私は「BLにしては珍しい作品だな」という印象を無意識に持っていたのかも知れません。
あと、タイトルも気になったんですよね。
表紙絵から、それが刑務所かそれに近い場所であることは想像できたんですが、
このタイトルはその閉塞感をよく表してますよね。
「箱」っていう漢字の所為かな。
「はこ」や「ハコ」ではそんな風に思わないのに漢字になると、たけかんむりがのしかかっていて、
その下の相も、外に向かって伸びているのが木の左払いだけなので
平仮名や片仮名の開放感や拡散したイメージが全くないというか。
漢字って良く出来てるなぁ(作品に関係無いし)
じゃなくてこの漢字で書かれたこのタイトルが非常に内容を端的に表していたというのは
読んだ後で分かったことなんですが、だからこのタイトルは本当に上手いなと思います。
さて、肝心のお話は、表題作の「箱の中」とその後を書いた「脆弱な詐欺師」の二本。
「箱の中」は兎に角描写が細かくて、無駄に刑務所内の事に詳しくなってしまいます(笑)
痴漢の罪で10ヶ月服役することになった堂野の視点で物語は描かれていますが、
心理的にも情景的にも描写は細かいですね。
痴漢の冤罪もよく話には聞きますが、その後を知らない為こういうのを読むとなんだか苦しくなります。
痴漢の冤罪から二重、三重の苦痛の連続で堂野が精神的に参っていき、そこに僅かな救い、
さらなる裏切りと続く事によって、過度の人間不信に陥っていく様子などは、
本当に血肉を持った人間の心理がそのまま書かれているみたいで、しんどささえ感じます。
一貫して堂野の視点で描かれている為、堂野に思いを寄せる喜多川の心はよく解らないのですが、
逆にそれで一喜一憂する堂野の気持ちに同調しやすく、物語の終わりに去来するどこかやりきれない気持ちは、
自分の目は第三者視点に過ぎないと理解しながらも、
堂野の気持ちを共有しているような錯覚にさえ陥らせてくれました。
兎に角この作品はその結末と言い、短編小説として素晴らしいと思います。
続編は、この作品が生まれてから要望があって生まれたものらしいですが、それも納得です。
ここで終わっていても、この作品は何ら遜色ないと思いますから。
「脆弱な詐欺師」は、出所してきた喜多川の「堂野探し」の依頼を受ける探偵視点でのお話。
堂野視点では「自分に異様に執着する男」だった喜多川が当事者以外の視点で描かれ、
その堂野に対する執着が他者の目から見ても相当なものであることがはっきりと解ります。
喜多川の純粋過ぎる真直ぐさにはやや怖さを覚えつつも、その必死な姿に切なさを感じずにはいられません。
特に中盤は「誰か何とかしてやって」という風に、探偵側の視点ではなく、完全な第三者の目で思い、
喜多川と同室で服役していた芝が登場して来た時の安堵と言ったら、もう、ね。言葉もないですよ。
これは探偵の大江視点の話ですが、描かれているのは大江じゃなく喜多川であると言っていいでしょう。
勿論大江サイドのストーリーも確かにあって、それと同時に二つの話が進行しているんですが、
やっぱりこれは喜多川という男を第三者の目で捉えた話と考えた方がしっくり来ます。
大江にはこの作品のタイトルにとてもお似合いな結末が待っているのですが、それもまた人生ですね(笑)
しかもそれに続くとても短い短編の「それから、のちの…」という話がね。
作者の素晴らしい意趣返しというか(笑)
うまいなぁって思いますよね、これは。
話は更に「檻の外」に続きますが、まとめが綺麗な為、ここで終わっても物語として十分成立します。
いや、この一冊はホント凄かったです。私の中のBLの価値観を変えましたね。

*1:でもこの「同性同士である必要性」は最近あんまり気にしないようになりました。逆に「異性でなければならない必要はあるのか」とも言い換えられることに気付いたので。要するにやはり「同性の恋愛=異質なもの」として考えてたって事で自分の中の偏見に反省してます。