白夜行

最後まで痛い話でした。
詳しい感想は少し後に書きますが、ずっと裁かれる事を望み、それを遮られていた亮司は、
最後の最後で雪穂に対し、最大の愛情をもって最大の復讐を成し遂げた気がします。
重過ぎる愛情は鎖にしかならない、なんて言うとホントありきたりな表現ですが、
この二人は愛情という呪をお互いに掛け合っていたとしか思えません。第三者視点ではね。
でも他者の目には歪んで見えても、彼等にとっては最大限の愛情であり、必死だったのですよね。
可哀想だと思います。彼等は哀れだ。見下ろした言い方になるけれど、本当にそう思う。

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私は初回を見逃しておりその後もちょくちょく見逃していたりするので、的外れな発言かも知れませんが、
この二人の、相手に対する愛情にはどこかしらズレがあったのではないかと思います。
彼等の『愛』を、幼い子供の無知が生み出した幻影だとは思いません。
けれど、どこかしら勘違いがあったんじゃないのかと思う部分は有ります。
特に感じたのは雪穂側でした。
亮司が園村君というかけがえのない友人や母親、典子さんなど、彼の中に存在する、
ある種の弱さを見せられる相手を作っている間も、雪穂はひとりぼっちだった気がします。
やっとほんの少しの本音をこぼせるようになった母も、その直後に死なせています。
雪穂には、言葉通り亮司以外誰もいなかった。
彼女にとって亮司は失ってはならないものだったのでは。
自分にとって必要な相手が、必ずしも愛する相手だとは、私は思いません。
だから、『自分が失ってはならないもの』を『大切なもの』と直結させていた雪穂は、
愛情を隠れ蓑に、亮司を縛り付けてしまったのではないかと思います。
勿論本人には完全な自覚はありません。
無意識には感じていたでしょうけど、今回の様に第三者(篠塚)からの責めの言葉を受けなければ、
それを認めたくはなかったでしょう。
けれど愛に飢えた彼女を責める事は誰にも出来ないし、もし亮司を縛り付けておいた事を
責められる相手が居たとしたら、それは亮司本人だけだと思うのです。
そして亮司はそんな事は望まない。それが彼なりの愛だから。
その愛情がまた雪穂をただひたすら甘やかし、苦しめるのですけれども。
多分相手を愛していたと言うのなら、亮司のそれの方がずっと普通のものだったのだと思います。
雪穂のそれは、失ってはならないという切羽詰まった思いと背中合わせな気がするのです。
だから世間一般で言う『純愛』だとか言うのとは、凡そ掛け離れた感情なんじゃないかと。
もっと、切実で、必死で、不様にそれにしがみついてるといった方が正しいと思う。
彼女がもっとまとも(というのがどんなのだかも良く分かりませんが)な環境で育っていたら、
ここまで追い詰められるような、苦しい愛の示し方は知ることもなかったかも知れませんよね。
亮司も不器用な子だったけど、雪穂の方が根深いなぁ。
これを愛と呼ぶならそれも良いと思う。愛なんて綺麗なだけのものじゃない。
地べた這い蹲ってでもしがみつくような、そんなみっともないものも愛だし、
雪穂や、亮司のようなお互いを苦しめあい、それでも必死で相手を守ろうとしている滑稽な姿も、
愛するということの一面なんだと思います。
笹垣さんの、亮司や雪穂に対する思いも愛情の一種ですよね。
償いとも言えるかも知れないですが。
初めはもっともっとドス黒い感情だったでしょう。
けれどお互いを守る為だけに必死な雪穂と亮司を見る内に、
哀れに思えてきたのじゃないかと思います。
まるで小さな子供があるものに執着を示し、それに必死でしがみついているような。
二人の絆は、そんな恐ろしい純粋さと幼さを感じさせます。
身体は成長し、知恵もついていっているのに、心(精神)だけは幼いまま凍結しているような。
成長出来ないのは第一の事件があったから。そしてそれが解決されなかったから。
そうなると笹垣さん自身、思う所も多い事でしょう。
彼等を暗い闇に閉じ込めてしまったのは、周囲の大人達でもあるのですから。
亮司は病気を患って少しホッとしたのかも知れませんね。
瀕死の状態で、雪穂に「行って」と告げた彼は満足そうでした。
自分の役割を無事に終える事が出来て、安心したのと、嬉しかったのと両方じゃないかな。
ずっとしんどかったと思います。
雪穂を幸せにする事が彼の命題だったとはいえ、幸せなんて上を見たらキリがありませんし、
実際店を持っても、お金がどれだけ手に入ろうと、雪穂が真に望む願いは叶えられなかった。
けど、もう亮司はその先を思い悩む必要はなくなったのですから。
彼女はきっと幸せに生きてくれる、そう信じるだけで幸せに逝く事が出来ただろうなと思います。
しかし残された雪穂にしてみれば、何もかもがからっぽの、嘘で固めた自分だけが残されて。
自分の幸せを願い逝った亮司の為に、罪を償う事も、自ら命を断つ道も諦めざるを得ない。
雪穂の生き地獄は、まさに始まったばかりと言えるでしょう。
亮司の子供と手を繋いだ彼女に、少しでも光は当たったのでしょうか。


感動した、と通常使われる意味では言えませんが、でも確かに感情は突き動かされました。
すごく考えさせられました。
このドラマには所々行間があって、そこを自分で埋めていく作業が楽しいと思います。
久し振りに本当に面白いと思いました。
最終回は尺が足りなくて目詰まり気味でしたが脚本が良かった。
あと音楽もすごく合っていましたね。歌は良かったな。
メロディーラインがああいう感じなので結構悲愴に聴こえていたのですが、
柴咲さん自体は割と淡々と歌っているのですね。感情乗せたらもっとクドくなっていたかも。
役者は本当に良かったです。
山田孝之さんも綾瀬はるかさんも回を重ねる毎に良くなってた気がします。
あと脇を固める人達が総じてすごく良かったです。
皆様素晴らしかったですが、その中でも武田鉄矢さん、渡部篤郎さん、八千草薫さんには
スタンディングオベーションしたい。
最終回の笹垣と亮司がやっと完全に向き合って、対面で言葉を交わした時には、
涙は止まらず、喉が痛くなりました。少し、苦しかった。
笹垣の心情の吐露を受けて、亮司が涙を流すシーンは印象的でしたね。
綾瀬さんは最後まで悪女を演じきり、お見事でした。
彼女は「何をいけしゃあしゃあと」と言いたくなるような、図太い悪女がすごく似合ってました。
結婚後の旦那相手の芝居に、実際やってんじゃないのと言いたくなるようなハマりっぷりでした。
雪穂をただの可哀想な女にはしちゃいけないと思うんですよね。
すごく強い悪女の面もあってこその雪穂だと思う。上手く事が運ばなくて爪を噛んでるような。
あとヘタレっぽい山田君との対比がある意味最高でした。
ああ、どうしよう。完全版DVD、欲しいかも……_| ̄|○