戦闘妖精・雪風(改)

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

今日はやっとこれ。
下の追記とか朝起きてすぐMAC起動して書いてるんですよ、ばっかじゃねーのアタシ。


物語に触れる前にまず、文体について。
男性の書く文章って、独特のリズムがありますよね。明らかに女の人と違う。
こういう所にも性の違いは歴然と現われるものなのか、
ちょっと無機質だけど、逆にそれでカラっとした印象を与えるのは良いなぁと思います。
ブッカーと零のやりとりとかもの凄い小気味良さで、リン・ジャクスンに言わせれば
機械的な・無機質な』会話とも思えたようですが、私はなんて無駄のない会話だろうと思いました。
私は情緒的である事が素晴らしいとは特に思わないので、
彼女の考え自体にそれほど同調していない部分もあるんですが、
それとは別に、割とあの会話にはそれなりの情感があると思ったんですよね。
短いセンテンスで必要な事を簡潔に、けれどどこかユーモラスだったり、温かみを感じる。そんな風に。
それは神林さんの文体そのものもそうで。
単語一つだけで句読点とか結構多いのですが、訥々と状況を描写しているのが却って味わい深いなと。
私の好みの文体ですね。
というより、もっと切実にこんな文章を書きたいと思った初めての作家さんかも知れません。
好きな文章は色々あるんですよ。こんなの書けたら良いなというのは。
でもこういう文体を、自分の物として消化吸収してみたい。
そして文を書きたいと思ったのは多分初めてです。
「悔しいけど気がついたらあの人の文体を真似ているような…」とかじゃなく、寧ろ真似したい。
手慰み程度の物をいっぱい書いて、自分のものになったと感じたら他人に見せられる話を書いてみたい。
そんな風に思いました。
自分の文章には如何にもな「女の情念」が漂ってて、鼻につくんですよねー。
だからと言ってただ削ったら単に有機物が無機物になっちゃうの。意味ない。
簡素でいて、そこにリアリティを感じさせる文。……簡素だからむしろリアルなのかな。
もう大好きです。冒頭の文章のリズムだけで、引き摺られるように読みました。
と、文章の事はここら辺りまでにして、内容。
話はね、これ、グッドラックが出る前に読まなくて良かったなと切実に思いました。
きっとここで終わってたら、零並みに落ち込んでましたよ。いや、落ち込むってのとは違うか。
衝撃が大き過ぎました。「え!? ここで終わっちゃうの!??」って。
一応以前に話を聞いていたのですが、ある意味零と雪風の別離とも言える場所で終わりなんですよね。
今の私の雪風自体への執着度から見て、ここで終わられてたらもの凄い焦らしプレイです。泣きます。
というか実際泣きました。
なんかもう訳解らないぐらい精神的に昂ったままグッドラックに移りましたもの。
グッドラックがなかったら本当に立ち直れなかったかも知れません。
フロドの旦那がお船で旅立っちゃう時くらいの喪失感ですよ……。
一冊丸々読んだ後の感想は最終章のスーパーフェニックスであないな事になってしもうて、で
落ち込んだのですが、それとは全く別にこの一冊は大好きですよ!!
ところで「妖精の舞う空」冒頭にある、零の過去にまつわる文章ですが。
あそこで

様様なものを愛し、ほとんどに裏切られ、多くを憎んだ。

とあるのですが、零は愛する事そのものはちゃんと知ってるんですよね。
でもなんだろう、グッドラックに関する話になってしまいますが、エディスとの会話なんかを見ていると、
零自身は愛情表現をしているつもりでも、相手にはそう取られなかった事とか多かったのではないかと。
……どっか食い違ってるというか。
ここらは「ぼくの、マシン」辺りも影響しているのだろうけど、もっと根っこの部分で
コミュニケーション能力が衰えている…というよりは他人と違うような気がするんですよ。
異星人と会話してるというか。文化が違うっていうほうがしっくりくるかな。
零は零の中に一つの確固たる社会を築いてしまっていて、それが外と波長が合わないという感じが。
だから相手にとっては何でもない事でも零は傷付いたのかも知れないし、
零自身は「関係ない」と切って捨てられる部分が他人の癇に触ったりとか。あったんじゃないかなぁ。
確かにそういう意味では零は結構孤独なのかも知れないです。
ブッカーと零が親しく(?)なるきっかけ話は結構好きですね。こういうエピソードを思い付くのが凄い。
「妖精の舞う空」で、一番好きな文が

「しずく、雨だれ、ほんの少し」少佐は言った、「ゼロ。──おまえの名だ、零」

というブッカー少佐の台詞。もうこのリズムの良さには参りました。堪らん。
あとアンドロイド云々の下りも二人の会話が面白過ぎます。
零の「スーパー婆さん」発言には電車の中だったのに吹き出しそうになりました。
「騎士の価値を問うな」ではフリップナイト・システムお目見え。
零がこの戦争に必要なのは機械か人間かを初めてちゃんと考えはじめるお話。
そして彼が雪風にとって自分は真に必要かを考え始めたのもこの時でしょうね。
自分が必要としてるんだから相手もそうであるはずだなんて、なんともまぁ凄い幼児的発想。
ここら見てるとこの時の雪風は、零にとって本当に「ぼくの、マシン」なんでしょうねぇ。
子供がおもちゃを手放さないのと大差ありませんよ。
ブルーの煙幕弾の台詞は、もう素敵すぎる(笑)こういう所にさりげなく笑いがあるのが好きです。
「不可知戦域」はアニメでは面影もなかったですね。地球人を乗せて遊覧飛行(違)していたら、
ジャムの領域といって差し支えない異空間に迷い込んだ、というお話。
ここでも雪風とジャムの間でだけの熾烈な戦闘が行われる場面があり(といっても描写は控えめ)、
零はやはり手を出す事も出来ない。
情報処理の素早さ正確さが問われる電子戦で人間が手を出せないのは当り前の事だけれど、
それでもこの時零はまた強い疎外感を感じたでしょうね。短いお話なのに、ここだけ妙に残ります。
んで「インディアン・サマー」。これアニメ版は批難囂々だったらしいですけど、なんででしょ。
台詞の見せ方とかは変わっていたけれど、根本的にあるものは原作とそう変わらないのに。
しかし本当に原作の零はちゃんと喋ってますね(笑)
先にあっち(DVD)を見たせいか、なんか嬉しいですよ。
といっても会話の内容そのものを見てみれば、やっぱり自分の内には触れさせない程度の会話しか
してないみたいなんですけどね。用心深いんだろうな。
トムの「ぼくは人間だよな」という台詞は切なかったです……。
多分心臓の事だけじゃなくて、トムは自分自身に不信を抱いていた部分が合ったんじゃないかな。
他者に肯定されないと不安だった。零が、珍しく雪風以外の事で心を動かした事例?ですかね。
ジャムの目標がどうやら人間ではなく機械だという事もかなり明確になってますね。
「フェアリィ・冬」……切ねぇっ!! これはさすがに少し悲しいお話だと思いました;
零はちょっとお休みで、主役はFAFの雑用的お仕事担当の天田少尉とブッカー少佐。
フェアリィという戦場の中で、人間が機械に淘汰されてゆく、というお話。で間違ってないよね?
天田少尉の自棄になっている状態とブッカーのコンピュータとのやりとりを尻目に、
零には雪風のほうが重要だった、というのが双方の立ち位置の違いを明確にしていますね。
ただ、この時点でコンピューターサイドが零を認めていたかどうかは謎だった訳で。
それ考えると零も結構危うい立場だったのでは。
「全系統異常なし」ではとうとう飼い犬に手を噛まれる零。なんてものじゃないか。
取り残されている事に気付いた、の方が正しいですかね。
雪風はとうに自分の思惑とは掛け離れ、自立した思考を確立しているという事に零が気付くお話。
自機の安全を優先し、人の乗った機体を盾代わりにした雪風
感情なんてないのだから、戦略的に優位なものを取るのは当然なのですが、零は「戦死だ」と言いながら、
この時にはもう雪風に畏怖の念を抱いていたのでしょうね。
ジャムの攻撃に、零の予想外の機動で対抗した雪風無人化を進めようとする少佐の心苦しさとか、
いつか雪風に振られるかも知れないという事を突き付けられる零とか、
兎に角登場人物の心理状態も物語も、大きく動きました。
ブッカーや零の葛藤と雪風の静けさの対比が好きです。〈改〉の中では一番好きな話かも知れません。
「戦闘妖精」ではブッカー(&オマケで雪風&零)とリン・ジャクスンの邂逅。
他者の目を通したFAF…というか特殊戦の人間描写。最後を目前に息抜き。
零は……ほんっとどうしようもねぇなぁ、という感じ(笑)
「スーパーフェニックス」アニメ版1話のラスト。なんか解らんが兎に角泣いた。
辛いとかそういうんじゃなくて、妙に心を揺さぶられました。
グッドラックを読まないと、FRX00に乗ってた二人がどうなっていたのかとか、
零がどうなったのかとか解らないんですが、それを知る為とかじゃなく、
とりあえず雪風の行動の意味を自分なりに考えたくて続きを貪るように読みました。
私の中ではまだ雪風が零を捨てたという表現に馴染む事が出来なくて、
ここは何度も何度も繰り返し読んでいます。
何故転送が終わってから零を射出したのか。
雪風を生かす為」だけに必要だったのならデータの転送終了後そのままでも良かったはず。
と思いつつも、搭乗員を生かすという命令は雪風の中に生きていてそれを忠実に守っただけとも言えるし、
しかしそうなるとFRX00の搭乗員を何故守らなかったのか、という疑問も生じたりで、
結局はブッカーの疑問と同じ所でぐるぐるするのですよ。
まだ姑くはここで色々考えそうです。
さて一巻分纏めてみますと、確かにこれ単独でも凄く凄く好きなお話ですが、
きっとグッドラックがなければ生殺し状態で悶々させられただろうなと思います。
今でも悶々してるけれど、きっとそんなの比じゃないですよ。
ああもう。ある意味イライラさせられてるのかも知れない。
とか言いながら、やっぱり果てしなくハマっている自分を自覚する羽目になっていたりします。
好きだ。好きすぎる。